今更聞けない「ブロックチェーン」とは?

ブロックチェーンは「経済的価値のインターネット」

ブロックチェーンを「経済的価値のインターネット」と呼んだのは、『ブロックチェーン・レボリューション』を著したドン・タプスコット氏だが、まさにブロックチェーンは価値をインターネットで通信することを可能にし得る技術と言える。

ブロックチェーンは、ネットワークに接続した複数のコンピュータによりデータを共有することで、データの耐改ざん性・透明性を実現することで、単に送金システムであるにとどまらず、さまざまな経済活動のプラットフォームとなり得る。

ブロックチェーンは、今から10年以上前にサトシ・ナカモト氏が暗号通貨ビットコインに関する論文を発表した際に、その基盤となる技術として発明された。ブロックチェーン技術のうち、ビットコインをはじめとする仮想通過のインフラとして機能する「パブリック・ブロックチェーン」は、データの改ざんを困難にし、PoW(Proof of Work※後述)という仕組みによって自律的な運用を実現している。

今回は改めて、ビットコインを題材にパブリック・ブロックチェーンの基本的なメカニズムと、今後の可能性について見てみよう。

パブリック・ブロックチェーンの仕組み

パブリック・ブロックチェーンとは、さまざまなデータのやり取りを複数のネットワーク上のコンピュータ同士を接続し、処理記録するデータベースの一種で、主に以下の特徴を備えている。

(1)取引データが暗号化されている
(2)合意された過去の取引データの集合体がチェーン上に記録されている
(3)データの改ざんが難しい仕組みを持つ
(4)中央管理者がおらず、分散的に運用されている
(5)ネットワーク上の複数のコンピュータが取引データを確認・合意するために送受信する
(6)システムダウンが起こりにくい

暗号通貨のビットコインは、パブリック・ブロックチェーンを基盤技術として運用されている。このビットコインを例としてパブリック・ブロックチェーンを使ったシステムがどのように構築されているかを紹介したい。

ブロックとチェーンという形状

一般社団法人日本ブロックチェーン協会によれば、ブロックチェーンとは「電子署名とハッシュポインタを使用し改竄検出が容易なデータ構造を持ち、且つ、当該データをネットワーク上に分散する多数のノードに保持させることで、高可用性及びデータ同一性等を実現する技術」と定義されている。(一般社団法人日本ブロックチェーン協会HP:http://jba-web.jp/archives/2011003blockchain_definition

ブロックチェーンはその名の通り、ブロックと呼ばれる取引データを入れる箱と、それをチェーンで繋いでいく形状を持っている。

例えば、AがBにビットコインを送金する場合、取引のデータは暗号化されて一つのブロックに記録される。ビットコインではこのブロックが約10分間ごとにひとつ新しく生成され、次々に時系列に繋がっていく仕組みを持っている。

ブロックに入れる3種類のデータ

では次に、ビットコインのブロックに入れられている取引データについて詳細を見ていきたい。ブロックには以下3つのデータが入れられている。

① 「取引データ」いつ、誰が、どのくらいの量の取引をしたかを記録した最新のデータ
② 「ハッシュ値」過去のすべての取引を暗号化したデータ
③ 「ナンス値」マイニング(※後述)に使われる数値

このハッシュ値とナンス値を理解することが、ブロックチェーンの仕組みの理解に繋がるため、詳しく説明したい。

ハッシュ値とはなにか?

ハッシュ値とは、ハッシュ関数によりデータを不規則な文字列に変換したもののことだ。
例えば「ブロックチェーンの仕組みを理解したい」という文章をハッシュ値に置き換えると以下のような文字列が生成される。

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ハッシュ値は少しでも違うデータであれば違う文字列になる。また、一方向にしか変換できないため、生成された文字列から元のデータに戻すことは出来ない。
ビットコインの場合、必ずその直前のブロックのデータを変換したハッシュ値を新しいブロックに記録する。生成されたブロックが、時系列に沿ってつながっていくため、それ以前の過去のすべての取引データがハッシュ値化されて記録されていることになる。

ナンス値を使ったマイニングがブロックをつないでいく

実は上記のハッシュ値を生成するのはそれほど難しくない。具体的には、ハッシュ関数に取引データを入力するだけでよい。しかし、ビットコインではその生成されたハッシュ値の文字列が特定の数値より小さくなければならない。そのため、文字列の先頭が「000…」となるようにいくつも0が並ぶようにする、というルールを持たせている。

この特定のハッシュ値を生成するために使われるのが「ナンス値」だ。

①取引データと②一つ前のブロックのハッシュ値、に加えて、③「ナンス値」という数値を入れて、生成されたハッシュ値が特定の値より小さい(先頭に0がいくつもならぶ)数値になるまで何度もナンス値を変えながら同じ計算を繰り返す。

こうして正しいナンス値を探し当てる作業をマイニングと言い、マイニングする者をマイナーと言う。マイナーは、取引データを追加するために、上記のナンス値を見つけ出す「計算競争」に参加する。

ハッシュ関数は、任意のデータから規則性のない文字列を生成する関数であり、出力値を予め予測することは出来ない。したがって、数値をひとつずつ当てはめていく膨大な計算量が必要であり、大量のコンピュータと電力が必要とされる。

そして、最初に正しいナンス値を発見したマイナーは、新しいブロックをブロックチェーンに書き込む権利を得る。新しいブロックが書き込まれることで「承認」となり、その報酬としてマイナーには一定額のビットコインが支払われる。

前述のように、新しいブロックのハッシュ値の生成には、過去すべての取引データが暗号化されたハッシュに、新たにブロックに含める取引データ、そしてナンスを含む。こうして、マイナーの作業によって新たに追加されるブロックが過去のブロックとチェーン状につながっていく。

理論上改ざん不可能な理由とPoW(Proof of Work)

人類は歴史上、時には石に刻み、時には紙に書き記すことで情報を伝達してきた。そして、インターネットの登場によって、誰もが瞬時に情報を送受信し、共有できる時代が到来した。だが、いくら大量のデータを高速にやり取りできたとしても、改ざんされる危険性が残っているのであれば、それを監視し管理する必要がある。インターネット上を行き交う情報量が増えるほど、データの信ぴょう性を確保する困難さは増している。

ブロックチェーンが「インターネット以来の発見」とまで言われるようになったのは、理論上、改ざんが極めて困難なデータの生成が可能になったことによる。

一つのブロックのデータを改ざんした場合、そのブロックの後に続くブロックのハッシュ値が変わってしまう。そのため、改ざんしようとする取引データだけではなく、後続のブロックのハッシュ値もすべて計算し直す必要が生じる。

1~100番までブロックが存在している場合、50番目のブロック内の取引データを改ざんすれば、51~100番のハッシュ値も計算し直す必要がある。更に、計算している間に101番目以降のブロックが発生している場合、他の参加者が新たなブロックの生成を行う前に改ざんに必要なすべての計算を行う必要がある。

改ざんのための計算は、厳密には可能だ。だが、そのためにはマイニングのために莫大なコスト(大量のマイニングを高速で行うコンピュータや電気代)を必要とするため、そのコストを負担してまで改ざんを行おうという人物は現れないと考えられる。

多大なコストを掛けて不正を働くより、むしろマイニングに取り組んで報酬を得るほうが経済合理的であり、わざわざ改ざんを行うインセンティブが働かないからだ。「ブロックチェーンは改ざん不可能」と言われるとき、「理論上」という冠が付いているのはこのためだ。

そして、マイニングの計算作業には競争原理が働いているため、多数のマイナー達が悪意を持って結託することも考えにくい。このように、マイナーが暗号化されたデータを見つけ出す作業に競争原理を持ち込み、さらにマイナーに報酬というインセンティブを与えることで取引の整合性を証明していく仕組みをPoW(Proof of Work=仕事による証明)と呼ぶ。

ただし、マイニングによるビットコインの報酬額は「半減期」と呼ばれる時期に定期的に半額に引き下げられる仕組みになっている。マイニングが行われるたびにコインが発行され、通貨の総流通量が増えると、希釈化により価値が下がってしまうからだ。つまり、「半減期」とは、「マイニング報酬が半額に減額されるタイミング」のことを意味する。

ビットコインの場合、取引データを保存管理しているブロック数が21万ブロックに達するたびに、マイニング報酬が半減するようになっている。従って、マイニングに参加するには早いほうがよいのは言うまでもなく、そのインセンティブによって世界中のマイナーが参加する。

このようにパブリック・ブロックチェーンは、中央集権的に管理するのではなく、分散して存在するマイナーがPoWというシステムに自律的に参加する、いわば経済合理的な行動によって実現されている。

プライベート・ブロックチェーンで活用される領域

データの改ざんがされにくいことからパブリック・ブロックチェーンが活用される可能性がある領域は、年々増加している。
例えば、金融機関によるブロックチェーン活用も今後進むと見られており、事実、海外の多くの銀行では暗号通貨の発行や勘定系、あるいは送金サービスに応用する実験も行われている。

スペインのサンタンデール銀行の9月12日のプレスリリースによると、同行はイーサリアム(ETH)のパブリック・ブロックチェーン上で2000万ドル(約21億6,000万円)分の債券を発行した。ブロックチェーンの利用により、より迅速に債券を発行し効率化できるとしている。

一方、ビットコインのようなP2P内の誰でもが参加できるパブリック・ブロックチェーンではなく、金融機関自らが管理者となり、管理者に許可された者だけが参加できるプライベート・ブロックチェーンも存在する。そこでは、PoWは課せられない。従って、取引データの処理はパブリック・ブロックチェーンに比べ迅速に行われる。

直近の事例では、ドイツ銀行がJPモルガンのブロックチェーンを使った決済サービス「銀行間情報ネットワーク(IIN)」に参加した。フィナンシャル・タイムズが9月15日付で報じた。IINは各国の企業同士の情報共有を促し、クロスボーダー(国をまたいだ)送金を行う。2019年3月時点では185以上の銀行がIIN参加を表明していたが、年末までに大手銀行も含めて400行の参加を目指しているとされる。

同じく、ブロックチェーンを基盤にしたクロスボーダー送金システムでは、9月11日、マスターカードと法人向けブロックチェーンコンソーシアムのR3が提携したと発表した。世界中の口座を連携して高速で決済を行うシステムの開発を目指すという。

また、ロシアのアルファ銀行は、法人顧客向けに決済やローン、さらに口座内の流動性プールを管理できるブロックチェーン基盤の金融サービスを提供する。同行が9月12日に発表した。これは顧客がカスタマイズできるサービスであり、ブロックチェーンプラットフォーム上でホストされ、スマートコントラクトを採用している。

ブロックチェーンは、いまだ課題もあり発展途中であるが、今後、進化しつつさまざまなビジネスにおいて新しい価値を提供する可能性を秘めている。AIやIoTとの連携も、そのスピードに拍車をかけることだろう。

とりわけ、ブロックチェーン上で通貨としてやりとりされるトークンは、これまでとまったく違う経済圏を構成する可能性がある。広告を見るだけでトークンを発行してくれるブラウザ「Brave」や、ウォーキングやトレーニングをするとトークンがもらえる「Lympo」など、その発想に限りはない。

進化するブロックチェーンに今後も注目したい。

トークン経済については、以下の記事を参照されたい。
ブロックチェーン登場から10年~「スマートコントラクト」が実現する新しいビジネスの形とトークン経済圏とは


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