韓国社会に蔓延する「欲求」「自暴自棄」…過当競争が歪めて“異常殺人”続発
理由もなく人を殺す―。そんな行為が横行する社会がいいと思う人
などいないだろう。韓国でそう
した行為が増えているという。今年9月、面識のない男性を殺した20歳の陸軍兵士は「死ぬ前に誰か殺したかった」と供述。23歳の男は、最初に出会った人を理由もなく刺し殺したという。ねじ曲がった「欲求」は、社会の歪(ゆが)みそのものではないか。
刺激を得るために…歪んだ動機
朝鮮日報によると、9月6日、ソウル市内である事件が起きた。カラオケボックスの店主(73)が果物ナイフで数回刺されて惨殺され、6日後、犯人が逮捕された。陸軍部隊から脱走した20歳の一等兵だった。男は、面識のない店主を殺した動機をこう述べたとされる。
「人生に楽しみがない。死ぬ前に誰か殺したかった」
男は服を数回着替え、市内の防犯カメラを避けるような行動を取っていた。
同紙によると、同様のケースはこれだけでない。今年7月に京畿道竜仁市で、19歳の少年が、知人の女性(17)を強姦したうえで殺害し、工業用カッターで切断。動機について「ホラー映画のまねをしたかった」と供述した。2010年には、23歳の男が最初に出会った人を殺そうと計画し、実際に偶然すれ違った26歳の男性を刺し殺した。男はオンラインゲームに夢中になっていたといい、現実と区別がつかなくなっていたのかもしれない。
こうした状況を、専門家は朝鮮日報に対し「刺激を得るために他人を殺傷しようという、ねじ曲がった刺激追求型犯罪が発生している」と指摘し、別の専門家は「やり場のない怒りや挫折などの経験を通じ、自暴自棄的な心理状態が殺人衝動に駆り立てる」と分析している。
お年寄りが住みにくい社会
問題は、そうした事態がなぜ起こるのかということだ。理由を考えてみたい。
ひとつは過度な競争社会だ。韓国は極端な学歴社会とされる。大学進学率は8割を超え、小中学生のうちに英語圏などに留学する児童・生徒も少なくない。一握りのエリートになるために、子供たちは幼いころから受験・競争にもまれ、その親たちは塾費用にあたる私教育費が増え、家計を圧迫することに苦しむ。
そして、その結果として生まれたのが自殺率の高さだ。韓国統計庁が9月に発表した2012年の死因統計によると、自殺率は人口10万人当たり28・1人。経済協力開発機構(OECD)が算出している平均値(12・5人)をはるかに上回り、OECD加盟国の中では最も高かったという。
過度な競争社会にもがき苦しんでいる人たちが行き着く先が自殺という最悪の結果なのだが、暮らしにくく社会が進んでいることを示すデータもある。
国連人口基金などが10月1日発表した高齢者福祉に関する報告書によると、60歳以上のお年寄りの所得保障や雇用、生活環境などをもとに高齢者が住みやすい国をしたところ、韓国は91カ国・地域中67位だった。アジア1位は日本で全体の10位。自殺率も高齢者になるほど高い傾向を示しているとされる。
しかし、高齢者に対する政府の施策は失敗続きだ。韓国では現在、朴槿恵大統領が選挙公約だった福祉政策の一部の修正で批判にさらされている。9月30日には最側近の福祉担当大臣が引責辞任した。
例えば、65歳以上の高齢者全員に毎月20万ウォン(約1万8千円)を支給するとした内容だったが、実際には財源不足で、支給対象は全体の7割の低所得者に限定。支給額も修正した。このほか、大学授業料の半額化は見送られる方針で、高校教育の無償化も17年の実現、0~5歳児の乳幼児教育費の無償化も修正の可能性が取り沙汰されている。社会的弱者に対する施策はすべて財源が不足している。
ねじ曲がった殺人者があふれる社会と、お年寄りら弱者が暮らしにくい社会。いずれも韓国社会が抱える“歪み”を象徴している。
身勝手な行為
昨年6月、大阪・心斎橋で男女2人が刺殺された通り魔事件。殺人などの罪で起訴された栃木県出身の礒飛京三被告は犯行後、身勝手な供述を繰り返した。
「自殺しようと思ったが、死にきれなかった」
「人を殺せば死刑になると思った」
自殺を図ろうとした形跡はなく、あてにしていた仕事の当てがなくなり、自暴自棄になり、衝動的に犯行に及んだとみられているが、逮捕後には「事件前夜から幻聴が聞こえ始めた」などと供述したという。
身勝手な態度だが、こうした犯罪はいつ、どこで起きるかは分からない。韓国社会で起きていることを、人ごととして捉えてはならない。
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