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「共謀」それとも「洗脳による心神喪失」 難しい判断迫られる裁判員

相関図

25日に始まった兵庫県尼崎市の連続変死・行方不明事件発覚の端緒となった大江和子さん=当時(66)=のドラム缶遺体事件の裁判員裁判の公判は、一連の事件で初めての裁判員裁判だ。3被告は「暴力」を駆使して君臨した角田美代子元被告=自殺、当時(64)=の支配下にあり、「善悪の判断ができなかった」と心神喪失を理由に責任能力を争う姿勢を示し、無罪を主張した。マインドコントロール下の刑事責任をめぐっては、これまでの同種裁判で心神喪失と認定されたケースは少なく、裁判員は難しい判断を迫られる。

平成8~10年に北九州市のマンションで監禁状態の男女7人が死亡した事件では、主犯の男から、ドメスティックバイオレンス(DV)などの虐待を受けた共犯の内縁の妻だった女の責任能力が争われた。

男の指示で次々と家族らに手をかけた女に対し、1審判決は男の意に沿うように自らの行動や考えを選択したとして、「積極的な意志で犯行に加担した」として死刑を言い渡した。

女は2審で「男に支配され、行動を制御できない状態だった」と心神喪失を理由に無罪を主張。2審判決は長期のDVで男に支配されていたが責任能力はあったと認定した上で、「特殊な状況で適法な行為を行う可能性は限定的」と判断、無期懲役に減軽した。

 

マインドコントロールに詳しい立正大の西田公昭教授(社会心理学)は、精神的に支配された被告の責任能力の有無を争った裁判について、「暴力的な支配から逃れられない理由の証明は難しく、心神喪失が認定された例は少ない」と指摘する。

今回の裁判については「3被告の精神鑑定の結果は洗脳状態が解けた被告たちの説明に基づいており、本当に当時の精神状態を表しているか分からない」とし、「裁判員が犯行時の3被告の精神状態を正しく理解するのは困難だろう」との見解を示した。

被害者が加害者から日常的に虐待され加害者の言いなりになってしまうケースは、尼崎事件の前後にも報告されている。

堺市堺区の北川睦子さんが暴行の末に死亡し奈良県の山中に遺棄された事件では、大阪府警が今年6月、知人で無職の岩本孝子、池田和恵両被告=傷害致死罪などで起訴=らを逮捕。両被告らは北川さんから預金通帳を取りあげたほか、日常的に暴行を加えて上下関係を築いた。

昨年夏、別の知人が困窮した北川さんに援助を申し出たが、北川さんは「岩本さんに怒られる」と拒絶。この知人は「まるでマインドコントロールされているようだった」と振り返る。

 京都府長岡京市で平成22年5月、失踪した妻の両親を同市の路上で刺殺したとして韓国籍の元不動産業、李敏男容疑者=無期懲役=が京都府警に殺人容疑で逮捕された事件。李受刑者は事実無根の妻の不倫を疑い、人格を否定するような暴言を浴びせた上、「わび状」を書かせていた。

しだいに情緒不安定になった妻は李受刑者と同様に自身の両親らをののしるようになった。妻が耐えかねて失踪するまで1年ほどこうした状態が続いたという。

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