新型コロナウイルスの影響で経営難に直面した企業への経済対策として創設された国の持続化給付金。売り上げが減少した中小企業や個人事業者らに約5兆5千億円が給付され、苦境を乗り越える一助となった一方、約14億円にも上る不正受給が明らかになった。実際に200万円を不正受給したベトナム人女性が取材に応じ、その一部始終を明かした。家族と日本で平穏に暮らすことを夢見ていた女性はなぜ、「浅はかだった」と悔いる過ちに手を染めたのか。
持ちかけてきたのは知人の中国人
新型コロナが猛威を振るい、全国に緊急事態宣言が出されていた令和2年5月1日。ベトナム国籍のマイ・ティ・リエンさん(31)=仮名=は、知人の中国人男性から大阪市西成区の自宅に招かれていた。
手にしていたのは、自身が経営する食材販売などを手がける会社の登記簿や確定申告書。求められるがままに手渡すと、男性は「あとはこちらで手続きを進めておくから」と穏やかに話を切り上げた。
話はその1週間ほど前にさかのぼる。マイさんは男性から給付金制度について説明を受け、「コロナで会社の経営が苦しくなるから申請したほうがいい」と持ち掛けられた。
マイさんの会社はコロナの影響はそれほど受けていなかったが、「簡単に国のお金をもらえるのなら」と、制度や申請要件を確認しないまま提案に乗った。
給付金は手続きを大幅に簡略化して迅速な給付が進められており、マイさんのもとにもほどなくして、中小企業に対する上限の200万円が入金された。手数料として40万円を男性に分配し、残りは会社の事業にあてた。
幼い次男を育てながらの日本での生活を気に入り、将来的には他の家族も呼び寄せ、永住したいと考えていたマイさん。そのときはまだ、そんな日常が一変することになるとは、考えてもいなかった。
休業要請支援金も不正受給
申請から5カ月近くが過ぎた10月ごろ、自宅に大阪府警の捜査員が訪ねてきた。「給付金を申請された件で少しお話を伺いたい」。大阪市内の警察署への同行を求められ、給付金の申請方法や知人男性のことを矢継ぎ早に質問された。
当初はなぜ警察に話を聞かれているのか分からなかったが、事情聴取が進むにつれ、自身の置かれている状況がのみ込めてきた。
知人男性は複数の企業に対して不正受給を持ち掛けており、指南役として府警の捜査線に浮上。マイさんの会社も、給付金の受給要件を満たしていなかったが、売上金などを大幅に改竄(かいざん)して申請されていたことが判明していた。
その事実を知ったマイさんは、「軽率な行動だったが、噓をついて金をもらったわけではない」と弁明。捜査の結果、持続化給付金の不正受給での立件は見送られたが、同じ男性の手引きで大阪府の休業要請支援金100万円の受給も申請していたことが発覚し、詐欺未遂の疑いで書類送検された。昨年1月に詐欺未遂罪で起訴され、執行猶予付きの有罪判決を受けた。
猶予付き有罪判決を受けた女性は…
中小企業庁によると、持続化給付金は2年5月~昨年3月ごろに計約424万件、総額約5兆5千億円が給付された。そのうち不正受給であることが判明しているのは、8月4日時点で約14億円。これまで約11億円が返還されたが、3億円近くが未回収となっている。
一連の不正受給事件に詳しい元検事の高橋麻理弁護士は「これほど不正受給が横行したのは迅速な救済を優先したため、審査に甘さが生じたことが原因だ」と指摘。「中小企業庁は不正受給者に対し返還を求める強いメッセージを送っている。犯罪により得た給付金は速やかに返還されるべきだ」と話す。
取材に応じた6月末、マイさんは「要件も確認せずに申請を依頼したのは浅はかだった。不正受給に関わったことを謝りたい」と話しながらも、給付金は事業に投じ、返還ができないと説明。詐欺未遂罪で有罪判決が確定したことなどから、その後、ベトナムに強制送還された。
https://www.sankei.com/article/20220820-DKU3S2XFJNNITDDQVT7VMKEOEI/
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