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民家で発見されたのはパソコンやプリンター、そして約120枚にも上る外国人の偽造身分証だった-。日本で暮らす外国人に交付される「在留カード」を偽造する「工場」が近年、国内で相次いで摘発されている。日本に滞在できる資格や就労の可否などを示す「在留カード」の制度開始から10年余り。偽造技術は巧妙化してコストも低下し、入手が容易になっているという。 【写真】千葉県の製造拠点で見つかった偽造在留カードの材料や道具

■押収パソコンに2万人の顧客データ

昨年9月、千葉県旭市の田園地帯にある古い民家に、兵庫県警や警視庁などの捜査員が入った。見つかった偽造品の在留カードの国籍はベトナムやインドネシア、中国など。押収品のパソコンには約2万人分もの顧客データが記録されていた。  県警などの合同捜査本部は中国人や日本人ら6人を、偽造在留カードを製造、提供した疑いで逮捕した。偽造身分証の製造拠点としては過去最大規模とされ、県警などはグループが最大で1億4千万円を売り上げたとみている。

■1枚1500~7千円で販売

在留カード制度は2012年、在留資格や個人情報を明記して、外国人の就労の可否を確認しやすくするために導入された。偽造を防ぐICチップを内蔵するが、実際は目視で確認されることも多く、次第に中国などで偽造されたカードが出回るようになったという。  千葉県の製造拠点で注目されたのは、1枚1500~7千円という販売価格の安さだ。兵庫県警国際捜査課によると、かつて中国から持ち込まれた偽造カードは数万円程度で取引されたが、近年は国内に製造拠点が乱立して相場が下がり、入手しやすくなっている。

■他人になりすまして犯罪に悪用も

偽造技術の高さも際立っていた。本物に似せるためホログラム入りのラミネートフィルムで加工。番号照会による発覚を免れようと、実在する在留資格者のカード番号を転用していた。  一般的に偽造カードは、不法残留者や就労資格のない外国人が身分を隠すために使われるが、近年は他人になりすまして犯罪に悪用されるケースも出てきた。  昨年4月には大阪市内の郵便局で、他人名義の凍結口座の預金を不正に引き出したベトナム人が県警に逮捕された。その際、身分詐称に使用されたのが偽造カードだったという。  県警幹部は「一目見ただけでは分からない精巧な偽造カードが出回っている。特に金融機関や携帯電話会社の窓口は注意して確認してほしい」と呼びかける。 ▽偽造対策の読み取りアプリ「人権上問題」の懸念  在留カードの偽造技術に対応するため、出入国在留管理庁が2020年、対策として打ち出したのがカードの読み取りアプリだ。スマートフォンをカードにかざすとICチップを読み取り、記録された氏名や顔写真、在留資格などが画面に表示され、他人名義の有効なカード番号を用いても偽装を見破れる。誰でも無料でダウンロードできる。  ただ、このアプリには人権上の問題があると懸念する声も上がっている。  NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」の共同代表理事で国士舘大教授の鈴木江理子さんは「誰もが無料で使えることで市民が監視に動員され、外国人に不安を与えている。雇用契約や銀行口座の開設など、使用は必要な場面に限るべきだ」と話す。  入管庁は「同意を得た上での使用が原則」と人権への配慮を強調するが、鈴木さんは「管理される側の外国人は立場が弱く、確認を求められて断るのは難しいだろう」と配慮の実効性に疑問を呈する。  「失踪者」が多発する技能実習制度をはじめ、現行の在留制度の問題を指摘する識者も。神戸大大学院国際協力研究科の斉藤善久准教授は「そもそも不法就労が生み出されるのは、制度に課題があるから。摘発の仕組みばかりつくるのではなく、根本的な問題の解決に力を入れないといけない」と訴える。  【在留カード】2012年、入管難民法の改正に伴い、主に不法就労を防ぐ目的で、中長期の外国人在留者を対象に導入された。カードには名前や生年月日、国籍・地域などの個人情報に加え、在留資格や就労の可否などが記載される。外国人の雇用時は確認が義務付けられる。

https://news.yahoo.co.jp/articles/db301984d76cb2831b5b5299a6bb972bbc949272